第11回国際マイクロマシン・ナノテクシンポジウム開催結果報告
■ 第11回 プログラム
 平成17年11月10日(木)、東京北の丸公園の科学技術館サイエンスホールにおいて、第11回国際マイクロマシン・ナノテクシンポジウムが経済産業省及び新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の後援を受け、日本小型自動車振興会の補助事業として開催されました。シンポジウムは、当センターの野間口有理事長の開会挨拶で始まり、続いて新エネルギー・産業技術総合開発機構機械システム技術開発部山本哲也部長から来賓の挨拶を頂きました。今回は、「新たな産業の創出と発展を牽引するマイクロマシン技術」をメインテーマとして掲げ、「マイクロマシンビジネスの最前線」、「開花が期待されるマイクロマシン応用」、「マイクロマシン技術の最先端」の3つのセッションにて12の講演が行われましたが、一般講演に先立ち、特別セッションを企画し、「MEMS産業の発展を目指して」をテーマとして基調講演とパネル討論が行われました。会場には、エレクトロニクス、機械・装置、自動車、材料・化学等の種々の企業や大学・研究機関等から様々な専門分野の方々が339名もご来場され、大盛況の中に無事終了しました。 シンポジウムの様子をご報告いたします。
 マイクロマシンセンターでは、MEMS技術を活用したMEMSデバイス・製品の市場が拡大し、産業としての広がりが進展しつつある状況を踏まえ、MEMS産業の一層の発展を支援し、わが国産業の国際競争力強化に貢献することを目的として、平成18年4月にMEMS協議会を設置いたします。そこで、今回、このMEMS協議会をアピールするため、プログラムの中に特別セッション 「MEMS産業の発展を目指して」を企画しました。冒頭に、東京大学藤田博之教授により「MEMS産業の拡大と新規分野展開の方策」と題する基調講演が行なわれ、その後に、藤田教授がコーディネータとなり、尾形仁士氏(三菱電機(株)上席常務執行役開発本部長、MEMS懇談会代表)、小川治男氏(オリンパス(株)新規中核事業企画本部長)、田口裕也氏(日本機械学会会長、(株)日立製作所研究開発本部技師長)、土屋博史氏(経済産業省製造産業局産業機械課長補佐)、三宅常之氏(日経マイクロデバイス副編集長)、さらに海外から今回の講演者の一人であるProf. Harri Kopola (Research Director, VTT Electronics)の6名のパネリストにより約1時間半に亘り熱のこもった討論が行なわれました。
東京大学 藤田博之教授   
 パネル討論は「MEMS産業の動向」と「新たな産業の創出と発展を牽引するための施策」の二部から構成されていました。第一部では、小川氏と尾形氏によるそれぞれの企業でのマイクロナノ戦略の紹介、Prof. Harri KopolaによるフィンランドでのMEMSの産業化への取り組みの紹介がなされ、MEMS/ナノテクノロジーを企業の中核技術として位置付け、注力していることがよく分りました。最後に、三宅氏からMEMSは頭脳にあたる半導体、顔にあたるディスプレイに続き、手足や耳目にあたるMEMSデバイスは第三の波となって大きなマーケットを形成することは確実ですが、戦略次第で企業間に大きな格差が生じるであろうという話で締め括られました。
 第二部の施策に関する討論では、田口氏から機械学会でのMEMS研究の取り組みを電気学会と対比し、MEMS開発には機会学会と電気学会との横断的な連携が必要であると主張されました。また、MEMS協議会設立準備を進めているMEMS懇談会代表の尾形氏よりMEMS産業を発展させるためには産業の交流が必要であり、この役割を果たすべき組織としてのMEMS協議会の紹介が行われました。さらに、経済産業省の土屋氏よりMEMS産業の期待に応えるべく新しいプロジェクトを準備するなどMEMS技術向上のために最善のバックアップを行なうという力強い施策が説明されました。最後にMANCEF PresidentのDr. Kees EijkelからのMEMS協議会への力強いエールを送るビデオレターの放映により締め括られました。
 セッション1 「マイクロマシンビジネスの最前線」では、セイコーエプソンの跡部光朗氏からインクジェットプリンター、松下電器産業の中村邦彦氏から携帯電話、米国Analog Devices社のMr. Bob Sulouffから加速度センサーやジャイロスコープ(角速度センサー)等の慣性センサーに関し、企業現場からの臨場感にあふれた講演が行なわれました。インクジェットプリンターの心臓部であるプリンターヘッドはMEMSデバイスの中で成功したものの一つであり、プリンターヘッドは単なるプリンターへの応用にとどまらず、最近、LCDカラーフィルター、有機ELディスプレー、有機TFTs、プラズマディスプレイ用電極、バイオチップ等の種々のデバイスを製造するためのツールとして盛んに応用展開が行われていることが紹介され驚かされました。携帯電話のマルチバンド化のためには、さらなる技術革新が必要であり、その中で小型、低損失特性という特長を有するRF-MEMSスイッチおよびRF-MEMSフィルターの開発が期待されており、世界中でこれらの研究開発に取り組んでいることが分りました。加速度センサーやジャイロスコープ(角速度センサー)等の慣性センサーをMEMSデバイスとして製品化に成功し、MEMS産業化に成功した米国Analog Devices社のサクセスストーリはMEMS産業化に取り組む人々を勇気づける素晴らしい内容でした。
セイコーエプソンの跡部光朗氏 松下電器産業の中村邦彦氏
 セッション2 「開花が期待されるマイクロマシン応用」では、MEMS技術がキーとなる医療、光、エネルギー、宇宙等への応用研究最前線の講演が行なわれました。名古屋大学の馬場嘉信教授によるナノテクノロジーのバイオメディカル応用に関する講演では、微細加工技術と分子ナノテクノロジーによるナノバイオテクノロジーは最近の著しく進歩しており、ゲノム学、遺伝情報転写学、蛋白質学等への応用に向け、DNA、RNA、プロテインやペプタイド等の種々の生体分子の分離方法の開発を可能にし、がん治療への応用が期待されています。VTT ElectronicsのProf.Kopolaの講演では、未来のオプトエレクトロニクスや光通信システムにおいてMEMS技術は小型化、集積化、低コスト化のためのキー技術であることが述べられました。カシオの中村修氏による携帯端末用に用いるための超小型高性能の改質型燃料電池開発に関する講演から、燃料であるメタノール等のアルコールから改質器により水素を生成し、水素から発電セルを通して電気エネルギーを取り出すためのキー部品である集積化した小型の改質器を作るためにはMEMS技術がキー技術であることが分りました。6月までNASAで研究をされていたDr. Thomas Georgeの講演から、MEMSとナノテクノロジーは極微量、極小サイズ、極低エネルギー消費を必要とする宇宙開発において非常に役立っていることが分りました。このセッションの締め括りとして東京大学下山勲教授によりFine MEMSというタイトルの講演が行われ、MEMSへの多様なニーズに応えるためにはMEMS/ナノテク機能の複合、MEMS/半導体の一体形成、MEMS/MEMS高集積化等の高集積・複合MEMS技術の開発の必要性が述べられ、その中でMEMS製品が多くの製品の中に入っているにもかかわらず、一般の人々にはよく分らないので、インテル製マイクロプロセッサーが入ってる製品に表示されているようなマークをMEMSが使われている製品にも貼り付ければよいという提言は大変面白いものでした。
名古屋大学 馬場嘉信教授 ViaLogy Corporation
Dr. Thomas Georg
 セッション3 「マイクロマシン技術の最先端」では、MEMSと材料、超精密マイクロ加工とその応用、ナノメトロロジー、構造用薄膜材料とナノ材料の機械的性質の限界に関する講演が行われました。MEMS開発には材料、加工、計測、そして信頼性に関する基盤技術の開発が不可欠です。今回、内外の大学や研究機関で地道に進められている基盤技術の最先端に触れることができました。中でも、大阪大学の竹内芳美教授による超精密マイクロ加工とその応用と題する講演では、MEMSの加工技術はややもすると半導体微細加工技術が中心となりますが、機械加工においても平面のみならず、立体表面においてもナノレベルで加工できることを豊富な加工データとともに示され、大変興味のある内容でした。最後のペンシルヴァニア州立大学のDr. Christopher Muhlsteinによる構造用薄膜材料とナノ材料の機械的性質の限界の理解と題する講演では、MEMSの信頼性向上には用いる薄膜材料の破壊と疲労の挙動を解析し、この結果に基づき、薄膜表面にナノスケールの保護コーティングにより機械特性を改善する方法を示しており、MEMS用薄膜材料の信頼性はMEMS製品の製品化にとって重要な研究課題であり聴衆を引き付けていました。
大阪大学 竹内芳美教授 Pennsylvania State Univ.
Dr. Christopher Muhlstein
 朝の9時過ぎから夕刻の6時までの長時間、特別セッションでのパネル討論を皮切に12件の講演がびっしりと行われ、会場は熱気に包まれ、マイクロマシン/MEMSの可能性の大きさとそれらへの期待の大きさが弥が上にも感じられました。MEMS技術はこれまでの研究開発中心の黎明期から産業化の時期に入っていることが実感されました。タイムリーな話題を提供して頂いた国内および海外の講演者の方々、プログラムを立案して頂いたプログラム委員会の方々の努力のおかげで今回のシンポジウムは大成功となりました。
 次回の第12回国際シンポジウムは、平成18年11月8日(水)、東京フォーラムでマイクロマシン展と共に開催します。